「中腰で耐える#3」の続き。
内田樹の研究室にのっていたこのお二人の対談集である。
内田樹氏(うちだ・たつる) 神戸女学院大学文学部教授
春日武彦氏(かすが・たけひこ) 都立墨東病院精神科部長
医療従事者が考えておかなければいけない大切な事についての大きな示唆があります。
内田 今,患者さんの悪口のお話がありましたが,それも春日先生のすごいところですよね。今の世の中で,これだけ患者の悪口を書いてある本もないんじゃないかと思います(笑)。
でも,これは正しいと僕は思うんですよ。1つには,「援助者のリソースは有限である」ということが前提になっているということがあります。「すべての問題を正しい方法で解決する」っていうのは,リソースが無尽蔵にあることを前提にしています。けれど,実際には援助者のリソースは有限だし,腹が立つことだって当然ある。性格的に短気な医者がいたって全然おかしくないし,気が合わない患者さんだっている。そういう清濁すべてを盛り込んで,援助論としてまとめられていることがすばらしいと思いました。
春日 実際,腹が立つことも多いですからね(笑)。それとやっぱり,他人事じゃないっていうのもあります。患者さんを診ている時,ふと自分の人生を振り返って「俺もあの時発病してたんじゃないか」と思うこともあるんです。つまり,「こいつは俺のもう1つの姿かもしれない」という一種の共感がわき起こることがある。一方で「なんだこいつは? 俺とはまったく合わないな」と思うこともあります。
やたら患者さんに思い入れをしちゃう人は,「患者さんの悪口を言ってはいけない」と言うかもしれないし,また逆に「患者は自分とは違う。エイリアンだ」という冷めた目で接している人は,それはそれで患者さんの悪口なんか言いませんよね。自分の同類だと思ってないから。
内田 20代の頃,知的障害児施設でボランティアをやったことがあるんです。初めて知的障害児たちに出会った時はびっくりしちゃいましたね。まったく理解できなかったし,怖かった。けれど,すぐに慣れて,相手に親しみを感じるようになりました。
つまり,最初は単に「エイリアン」としてしか見れなかった相手が,だんだんと愛の対象になってくる。いわば「エイリアン期」から「エンジェル期」に入るわけですね。しかし,それからしばらくして,ある子がやったことで,僕はすごく腹が立っちゃって,怒鳴ったんです。「なんてやつだ。おまえは人間の屑だ!」って。僕はその瞬間,それまで自分がその子のことを人間として見てなかったことに気がつきました。
知的障害児の中にも,性格のいい悪い,気の合う合わないがあるという,あたり前のことが僕にはわかっていなかった。人間としてやっちゃいけないことは,知的障害児だってやっちゃいけいない。「この子たちのことを批判しちゃいけない」と思っていた,それまでの自分のアプローチが不十分だったことに気がついたんです。
これが言うなれば,「エンジェル期」から「同一カテゴリー期」ということになると思うんですが,やはりしばらくすると,「いや,同一カテゴリーというのにも無理があるな」と気がつく(笑)。それを続けようとすると,どうしても自分が壊れちゃうんです。やっぱり,彼らと自分とはすごく違う存在ですからね。
アメリカのパンキー研究所で研修を受けたとき、最初に言われたことは、
「今、あなたの目の前に座っている患者様の歯がどんな状態か?が一番大きな問題ではなく、その人がどういう人か?が一番の問題にすべきことなのです。
見ず知らずの人の歯を、何も考えずに治療する・・・こんな危険なことはありません。」
ということでした。
パンキー研究所では、患者様をどのように一人の人間としてとらえるか?これが治療技術と共に最重要視されていました。
そこであるドクターに言われました。
「丸岡先生。患者様を一人の人間として充分に観察し、理解し、その上であなたがその患者様を治療したくないと思えば、それは許されることです。
不幸な関係を長引かせることは、お互いに最大の苦痛であり、決してよい結果を生み出しません。」
患者様との人間関係で悩んでいた私は、この言葉に非常に救われました。
しかし、しばらくはそううまくいきませんでした。
まだ30歳代の世間知らずです。
「断る」技術は難しく、半ば喧嘩のようになってしまったこともありました。
やはり40歳を越えてからでしょうか?内田先生のおっしゃっていることに気づき始めたのです。
「私と他者には絶対に違いがある。
その違いがお互いの許容範囲が越えた場合は、それをきちんと伝える技術があるはずだ。」
例えば、時間にルーズな方がいます。必ずいらっしゃいます。
予約時間に20〜30分遅れられても、平然とされていて、何もおっしゃいません。
そのつどご注意しますが、それは長年染み付いたものですので、改善はしません。
予約をおとりになっていてもスッポカス・・・こういう方もきまっています。
考えました。
3度目でイエローカードを出します。
「○○さん。何度かご注意いたしましたが、予約時間をお守りいただけないようですね。
これでは、治療が計画どおりに進みませんし、無理にそうすると他の患者様の予約時間にはみ出していきます。
その患者様はきちんと予約時間をお守りになっています。その方の時間を取ってしまうことは不公平なことだと思います。
どうぞ、予約時間をお守りください。
もし次回予約をお守りいただけないときは、責任を持った治療ができませんので、治療をこれ以上お引き受けできなくなるかも分かりません。」
しかし、必ずまた同じです。
これがレッドカード
「○○さん。残念ですが、予約をお守りいただけないようですね。
このままいけば、同じことの繰り返しになってしまいます。
○○さんもいつもいつも同じことを言われるのはイヤでしょう?
この状態では、私も○○さんに好意を持つことが難しいのです。
お互いに、眉をひそめながら治療を続けていくのは不幸なことではないでしょうか?
今日は、ここまでの治療をしますが、次回の予約をお取りすることはひかえさせていただきたいと思います。
ご理解いただけますでしょうか?」
「・・・・・ハイ。」
この時点でも、
「次回からは必ず時間は守りますから」
とおっしゃる方はいらっしゃいます。
「それは、今までの経験から言っても無理ですので」
とお断りをします。しかし、どうしても断りきれない場合もあるのですが・・・
17年間で、改善をされた方はゼロです。
この間、私は、ニコニコと笑っています。
決して詰問調でお話をすることはありません。
なぜこう言えるようになったのか?
それはもちろん自分の限界(援助者のリソースは有限である)がよくわかってきたからです。
つまり、誰にでもできないことは必ずある・・・同類には違いないのです。(「エンジェル期」から「同一カテゴリー期」)
しかし最大の理由は、私を信頼していただいている私の本当の患者様の治療に精一杯力を注ぎたいのです。
イライラしていては、笑顔をお見せすることや、充分な気遣い、お話ができなくなってしまいます。
2005年05月18日
2005年05月16日
中腰で耐える#3
「中腰で耐える#2」の続き。
内田樹の研究室にのっていたこのお二人の対談集である。
内田樹氏(うちだ・たつる) 神戸女学院大学文学部教授
春日武彦氏(かすが・たけひこ) 都立墨東病院精神科部長
医療従事者が考えておかなければいけない大切な事についての大きな示唆があります。
内田 大学の先生もそうなんですが,医師も,「自分は正しい答えを知っている」という信憑が基本的にあるし,それがないとやっていけない職業です。だから,中腰で我慢するというあり方は難しいのかもしれない。
しかし,知性は正しい判断を下すこともあるし,間違えることもある。だからもし正しい知性のあり方というのが存在するとすれば,それは正しい判断をくだせない時に「よくわかりません」と言えることだろうと思います。しかし中腰で我慢できない人というのは,それを,すごく嫌うんですよね。
そういう人は,自分の理論が適用できない事例があった時に,「これにはあてはまりません」と言わずに,無理やりあてはめようとする。事例の中の都合の悪いファクターを全部削り取って,「ほら! 私の理論は全部にあてはまる」と言いたがるわけです。
春日 実際にはノイズ,あるいは例外みたいなもののほうが大事だったりするわけで,「すべてに当てはまる」なんていうマニュアル的なものは,現場では役に立たないんですよね。
内田 ですから逆に,「ここには有効だけれども,ここから先には使えません」と言う,地域限定,期間限定,条件限定の,適用範囲が限定されている理論のほうが,僕は理論としてはずっと上等だと思うんです。「何にでも使えます」なんて怪しいですよ。
春日 統合失調症の方で「これが宇宙の法則なんです!」って言いたがる人がけっこういるんですけど,それと一緒ですね(笑)。とにかく,コンパクトな中に真実を入れたがる。本1冊とか,箱の中に世界のすべてが入ってるとか,そういうのにグッとくるらしいです。
内田 普遍的であり,簡明であるものが好きってことですよね。そういう意味では似ているかもしれない
私が歯科医になってからずっと努力してきたのは、いかに治療のオプションを増やしていくかということでした。
そして、40歳を過ぎてからやっと気づいたことは、全ての患者様に普遍的に当てはまる原則や唯一絶対の治療法は無いのだということでした。
インプラントは確かによい方法です。
治療の理論も確立されてきましたし、成功率もほぼ100%に近づいてきました。
しかし、すべての患者様がインプラントを希望されるわけではありません。
最近、自分でも自分が変わってきたなと思うのは、
「こうしなさい。」
と患者様に言う前に、
「これだけの治療のオプションがありますが、あなたはどうしたいのですか?」
聞けるようになってきたことです。
そして、
「迷っています。」
と答えられたら、もう一度詳しい説明をした上で、
「では、もう少し迷ってみますか?」
とも言えるようになりました。
無責任なように感じるかも知れませんが、こう言うと、
「こうしなさい。」
と私が押し付けた場合より、患者様は早く結論を出されることが多いように感じています。
内田樹の研究室にのっていたこのお二人の対談集である。
内田樹氏(うちだ・たつる) 神戸女学院大学文学部教授
春日武彦氏(かすが・たけひこ) 都立墨東病院精神科部長
医療従事者が考えておかなければいけない大切な事についての大きな示唆があります。
内田 大学の先生もそうなんですが,医師も,「自分は正しい答えを知っている」という信憑が基本的にあるし,それがないとやっていけない職業です。だから,中腰で我慢するというあり方は難しいのかもしれない。
しかし,知性は正しい判断を下すこともあるし,間違えることもある。だからもし正しい知性のあり方というのが存在するとすれば,それは正しい判断をくだせない時に「よくわかりません」と言えることだろうと思います。しかし中腰で我慢できない人というのは,それを,すごく嫌うんですよね。
そういう人は,自分の理論が適用できない事例があった時に,「これにはあてはまりません」と言わずに,無理やりあてはめようとする。事例の中の都合の悪いファクターを全部削り取って,「ほら! 私の理論は全部にあてはまる」と言いたがるわけです。
春日 実際にはノイズ,あるいは例外みたいなもののほうが大事だったりするわけで,「すべてに当てはまる」なんていうマニュアル的なものは,現場では役に立たないんですよね。
内田 ですから逆に,「ここには有効だけれども,ここから先には使えません」と言う,地域限定,期間限定,条件限定の,適用範囲が限定されている理論のほうが,僕は理論としてはずっと上等だと思うんです。「何にでも使えます」なんて怪しいですよ。
春日 統合失調症の方で「これが宇宙の法則なんです!」って言いたがる人がけっこういるんですけど,それと一緒ですね(笑)。とにかく,コンパクトな中に真実を入れたがる。本1冊とか,箱の中に世界のすべてが入ってるとか,そういうのにグッとくるらしいです。
内田 普遍的であり,簡明であるものが好きってことですよね。そういう意味では似ているかもしれない
私が歯科医になってからずっと努力してきたのは、いかに治療のオプションを増やしていくかということでした。
そして、40歳を過ぎてからやっと気づいたことは、全ての患者様に普遍的に当てはまる原則や唯一絶対の治療法は無いのだということでした。
インプラントは確かによい方法です。
治療の理論も確立されてきましたし、成功率もほぼ100%に近づいてきました。
しかし、すべての患者様がインプラントを希望されるわけではありません。
最近、自分でも自分が変わってきたなと思うのは、
「こうしなさい。」
と患者様に言う前に、
「これだけの治療のオプションがありますが、あなたはどうしたいのですか?」
聞けるようになってきたことです。
そして、
「迷っています。」
と答えられたら、もう一度詳しい説明をした上で、
「では、もう少し迷ってみますか?」
とも言えるようになりました。
無責任なように感じるかも知れませんが、こう言うと、
「こうしなさい。」
と私が押し付けた場合より、患者様は早く結論を出されることが多いように感じています。
2005年05月13日
中腰で耐える#2
昨日の「中腰で耐える」の続き。
内田樹の研究室にのっていたこのお二人の対談集である。
内田樹氏(うちだ・たつる) 神戸女学院大学文学部教授
春日武彦氏(かすが・たけひこ) 都立墨東病院精神科部長
医療従事者が考えておかなければいけない大切な事についての大きな示唆があります。
内田 時間が経過することによって,取りうるオプション自体が激減するってことですよね。
逆に,結果が出ない段階で変に相手を論破しても,負けたほうはずっとウジウジ根にもって,こっちの仕事を妨害してきたりする(笑)。そんなことになるくらいだったら放っておいたほうがいいんですよ。
僕たちは,無意識のうちに「無時間モデル」でいろんなことを考えてしまいがちです。けれど,時間のファクターを入れるだけで解決しちゃう問題って多いと思うんですよね。先生の本も,時間というファクターを医療の中に取り入れたいうことが,大きな特徴になっているように思います。
春日 それがしばしば,「いい加減だ」とか「無責任だ」というふうにとられちゃうんですが,そうじゃないんですよ。実際,待つことで解決する問題って多いんです。
僕は,そういう「中途半端なところで時間が経過するのを我慢できるかどうか」っていうのが,援助者の実力の1つだと思っています。それは言い換えれば,精神の健全さの指標です。我慢できない人は,お手軽なストーリーを借りて妄想に走ることになる。そういう意味では,内田先生が今回の『死と身体』で書かれていた「中腰で我慢する力」というのはまさに,そういう力のことを言ってるのだと思いました。
歯科医は「もう少し様子を見ましょう。」「そのうち慣れますよ。」というように時間のファクターを使いがちです。
これは、自分の都合のために「保留」をしている感が強いと思います。
どちらかというと「いい加減だ」とか「無責任だ」といわれる部分です。
もちろん特に義歯などがからむ治療の場合、「慣れ」というのも大きな要素ですし、この慣れには時間も必要なのですが、患者様の精神的なケアーや納得と言う観点で、この充分に時間の要素を考えているかということに関しては疑問です。
特に抜歯に関しては、患者様はあまり理論的に考えることはできません。
最初に「この歯は抜歯が必要です。」とお話した場合、ほとんどの方は感情的に反応します。
そこで、突き詰めて「抜かないといけない。ダメだ。」を押し付けていくと、話はこじれていく一方です。
ここで大事なのが、この時間の要素です。
「こういう理由で抜歯が必要です。でもあなたに納得いただけない以上それはできません。
ゆっくり考えていただけませんか?」
このようにご説明をした上で、しばらく私からはこの件には触れないようにします。
そうすると、何回かの治療のあと、
「先生。この歯ですが、やっぱり抜かないといけませんか?」
とお聞きになってきます。
「そうですね。もう一度ご説明しますが、これこれこういう理由で抜歯が必要なのです。
もしこのまま放置しておくと、横の歯に悪い影響がでて、今なら1本の抜歯ですむのに、先々では3本の歯を抜かないといけなくなります。
また、今抜いておけば、インプラントなどの治療の色々なオプションが考えられますが、時間が経てば経つほど周囲の状態が悪くなり、義歯しかできなくなるかもわかりません。
どうされますか?」
「そうですね。では、やはり抜こうと思います。」
このように、そうですね、90%の方はおっしゃいます。
もちろん、その間は治療計画が最終的に決定できませんので、私も治療が進め辛いのですが、これが「中腰で耐える」ということだと思っています。
内田樹の研究室にのっていたこのお二人の対談集である。
内田樹氏(うちだ・たつる) 神戸女学院大学文学部教授
春日武彦氏(かすが・たけひこ) 都立墨東病院精神科部長
医療従事者が考えておかなければいけない大切な事についての大きな示唆があります。
内田 時間が経過することによって,取りうるオプション自体が激減するってことですよね。
逆に,結果が出ない段階で変に相手を論破しても,負けたほうはずっとウジウジ根にもって,こっちの仕事を妨害してきたりする(笑)。そんなことになるくらいだったら放っておいたほうがいいんですよ。
僕たちは,無意識のうちに「無時間モデル」でいろんなことを考えてしまいがちです。けれど,時間のファクターを入れるだけで解決しちゃう問題って多いと思うんですよね。先生の本も,時間というファクターを医療の中に取り入れたいうことが,大きな特徴になっているように思います。
春日 それがしばしば,「いい加減だ」とか「無責任だ」というふうにとられちゃうんですが,そうじゃないんですよ。実際,待つことで解決する問題って多いんです。
僕は,そういう「中途半端なところで時間が経過するのを我慢できるかどうか」っていうのが,援助者の実力の1つだと思っています。それは言い換えれば,精神の健全さの指標です。我慢できない人は,お手軽なストーリーを借りて妄想に走ることになる。そういう意味では,内田先生が今回の『死と身体』で書かれていた「中腰で我慢する力」というのはまさに,そういう力のことを言ってるのだと思いました。
歯科医は「もう少し様子を見ましょう。」「そのうち慣れますよ。」というように時間のファクターを使いがちです。
これは、自分の都合のために「保留」をしている感が強いと思います。
どちらかというと「いい加減だ」とか「無責任だ」といわれる部分です。
もちろん特に義歯などがからむ治療の場合、「慣れ」というのも大きな要素ですし、この慣れには時間も必要なのですが、患者様の精神的なケアーや納得と言う観点で、この充分に時間の要素を考えているかということに関しては疑問です。
特に抜歯に関しては、患者様はあまり理論的に考えることはできません。
最初に「この歯は抜歯が必要です。」とお話した場合、ほとんどの方は感情的に反応します。
そこで、突き詰めて「抜かないといけない。ダメだ。」を押し付けていくと、話はこじれていく一方です。
ここで大事なのが、この時間の要素です。
「こういう理由で抜歯が必要です。でもあなたに納得いただけない以上それはできません。
ゆっくり考えていただけませんか?」
このようにご説明をした上で、しばらく私からはこの件には触れないようにします。
そうすると、何回かの治療のあと、
「先生。この歯ですが、やっぱり抜かないといけませんか?」
とお聞きになってきます。
「そうですね。もう一度ご説明しますが、これこれこういう理由で抜歯が必要なのです。
もしこのまま放置しておくと、横の歯に悪い影響がでて、今なら1本の抜歯ですむのに、先々では3本の歯を抜かないといけなくなります。
また、今抜いておけば、インプラントなどの治療の色々なオプションが考えられますが、時間が経てば経つほど周囲の状態が悪くなり、義歯しかできなくなるかもわかりません。
どうされますか?」
「そうですね。では、やはり抜こうと思います。」
このように、そうですね、90%の方はおっしゃいます。
もちろん、その間は治療計画が最終的に決定できませんので、私も治療が進め辛いのですが、これが「中腰で耐える」ということだと思っています。
2005年05月12日
中腰で耐える
内田樹の研究室にのっていたこのお二人の対談集である。
内田樹氏(うちだ・たつる) 神戸女学院大学文学部教授
春日武彦氏(かすが・たけひこ) 都立墨東病院精神科部長
医療従事者が考えておかなければいけない大切な事についての大きな示唆があります。
春日 臨床では「判断に困る」状況がたくさんあります。そういう時にいちいち正論をぶつけられたりすると,議論の途中でめんどくさくなっちゃうんですよね。
内田 議論しても,互いにどうしても論破しきれない部分が残る。だからいつまでたっても先に進めない。それは結局,未来にかかわる問題が絡んでいるからですよね。
両者が異なる未来予測に基づいて論理を立てていると,結局そこについては,時間がたって実際に結果が出るまではわからない。「朝まで生テレビ」の議論がいっつも収拾つかなくなるのも同じ理屈です。
こういう場合には,「待つ」とか「保留」ということが有効になる。放っておけば,短いものだったら1週間,長くても1−2年待てば,何らかの結果が出る。それから議論すれば合意に至れるということは,実際にはすごく多いと思うんですよね。
患者様はどうしても結論を求めたがりますし、歯科医もそうしなければいけないという強迫観念があり、性急に答えを出しがちなのですが、患者様の生活にそう支障が無い限り「保留」とオプションがあってもいいんだと思います。
その場合、明るく自信を持って
「そうですね。この歯に関しては次回のメインテナンスのときにもう一度レントゲンをとって、それから考えましょう。」
たとえ90%抜歯が必要だろうと私が思っていても、そう言ってあげると患者さまは安心します。
またその次回のときに「やっぱり抜歯をしたほうがよいでしょうね。」と言ったとしても、その結論を受け入れやすいのです。
この対談の内容に関してはあと何回か考えて見ます。
2005年05月10日
価値観#2
もう16年来のお付き合いです。
当初はある程度のプラークコントロールに対する努力をされていたのですが、7年ほど前からあまり(ほとんど)興味をなくされました。
まめにお越しにはなるのですが、決して清潔な状態ではありません。
当然トラブルも起きてきます。
「ちゃんとやってる?」
「やってるつもり。」
「でもこれ見てみ。プラーク染め出したら真っ赤よ。」
「そうやねー。」
「○○さん。もうプラークコントロールのお話はしないようにしょうと思うけど、いい?」
「うん。いいよ。
でも先生。これから私の歯どうなる?」
「○○さんは虫歯も多いし、歯周病の進行も早いタイプ。
これからは、歯周病で歯を抜かないといけなくなることが増えると思う。」
「抜いたらどうなる?」
「入れ歯がだんだん大きくなっていって、最終的には総入れ歯だね。」
「うん。わかった。それでいい。」
私はもうこれ以上何も言いません。
これは、この方の価値観なのです。
それが良い、悪いと評価するべきものではなく、尊重するべきことだと思います。
そうすることが、この方の幸福なのですから。
ですので、このような患者様であっても、「予約時間を守っていただく」「私の指示に従っていただく」この最低限の秩序さえ守っていただければ治療をお断りすることはありません。
先月、歯周病でグラグラになった3本の歯を抜歯したので、今日はその部分の入れ歯と歯ぐきの隙間を修正して治療終了。
「じゃあ、またなんかあったら。」
「先生。ありがと。」
2005年04月28日
プレゼンテーション
緊急の処置、検査が終われば、お口の現状と治療プランの説明をした後、担当となる衛生士にすぐにタッチをします。
ここから、なぜ歯が悪くなるのか?ではどうしたらいいのか?の説明と実技が始まります。
この問題を解決しないで、いくら治療をしてもそれは「砂上の楼閣」にすぎません。
専門的な説明はなかなかご理解いただきにくいので、できるだけ写真や模型を使って説明をするように心がけています。

ある程度の治療になる方は、このようにプロジェクターを使用してご説明をします。
患者様の前にカラカラとスクリーンを広げて、投影するとそれだけでもかなりインパクトがあるようです。

もう慣れきっていますね。

プラークコントロールの実技。

簡単な歯石取り。

ご説明用の資料。
ここから、なぜ歯が悪くなるのか?ではどうしたらいいのか?の説明と実技が始まります。
この問題を解決しないで、いくら治療をしてもそれは「砂上の楼閣」にすぎません。
専門的な説明はなかなかご理解いただきにくいので、できるだけ写真や模型を使って説明をするように心がけています。
ある程度の治療になる方は、このようにプロジェクターを使用してご説明をします。
患者様の前にカラカラとスクリーンを広げて、投影するとそれだけでもかなりインパクトがあるようです。
もう慣れきっていますね。
プラークコントロールの実技。
簡単な歯石取り。
ご説明用の資料。
2005年04月26日
勇気ある臆病
歯科関係の出版社から、「歯科開業学」−親父の小言に学ぶーという本が出版された。
「患者さんが減らないようにする開業医のための本」というサブタイトルもあるが、「お金儲け」の方法を書いた本ではない。
日本のトップレベルの開業医が、経験、診療の注意、勉強について共著で短い言葉にまとめてある。
「プロジェクトX」の本の歯科医版と思っていただいたらよい。
私が20代〜30代にかけて教えていただいたり、コーヒーをおごっていただいたりした先生が故人となられ、その先生の最後の言葉も乗っている。
あのころ、食うや食わずで研修会に行っていた時代を懐かしく思い出す。
(21年前の私の初任給は20万円。土日に開かれるある程度の研修会に行けば、受講料はそのころでも10万円だった。一体どうやって生活していたのか自分でも不思議だ。)
昨日JRの大きな事故があったが、その件に絡めて朝スタッフに紹介した本の内容である。
私は、1978年にインプラントをはじめ、約2千5百本の手術を行ってきた。(還暦を過ぎてからはまったくやらないように決めた)幸い、大きなトラブルもなくインプラント歯科医を終えることができた。
手術の日は、模型上で必ずリハーサルして壁に貼った「インプラント手術の心得」を絶対に読んで手術に臨んでいた。
【壁張り紙】インプラント手術の心得
@診断をちゃんとやったか
A患者さんの体調はどうか
B自分自身が順調か(前夜の睡眠は十分か)
Cスタッフのリズムはどうか
D上顎の骨質は特に注意(ドリル)
E下顎の深さにも注意
Fうまくいかないと思ったら中止する勇気を持て
「NO」と言い切れる人こそ、勇気ある臆病を身につけた人である。
安全を神様に祈れ。
模型上のリハーサルというのはこういうこと。
このインプラントのケース。ここまでこぎつけるのに、これだけの模型を準備していった。

ステップごとに、きちんと順を追い、レントゲンで骨量を計測するための装置もある。

最終的にはインプラントを植える予定の部位の模型を切断し、実際にインプラントを位置させてみて手術の予想を立てる。
大事なことは、これでOK!OK!ということではない。
常に、「予想される問題点、起こりうる意外な状況は?」を考えている。
簡単に言えば、「もしこうだったら、こうしよう」を考えつづけること。
最終的には、「こうなったら、1本だけしか植えることができないな。」
「この場合は手術を中止しよう。」
「そうなったら、患者様にはこう説明しよう。」
ここまで考えなければならない。
インプラントの手術において「全て想定内」ということは決してありえない。
お口の中をちょっと見ただけで「インプラントはできますよ」と言うような歯科医が決して名医ではないのである。
私は手術1週間前から、暇があればこの模型をもって病院内をうろうろしている。
常に眺めて、イメージトレーニングをするのだ。
スタッフたちもそれを見ているので、すぐに理解した。
最後はこう締めくくった。
「私たちは、常に事故と隣り合わせの仕事をしている。
大事なことは、勇気ある撤退ができるかどうかだ。
『失敗をするより中断をすること』その決断ができるかどうかで優秀さが決まる。
『おかしいな』と思ったら、決してそのまま作業や治療を継続してはいけない。
まず、『おかしいなと思った』ことを誰かに話すこと。
『おかしく』なってから報告してもそれはもう遅い。
それで処理できなければ院長に上げること。
決してあやふやな状態で、何事も進行させてはいけない。」
昨日の事故でなくなられた方のご冥福を祈る。
遺族の方が一番辛いだろうが、運転手さんの家族も辛いと思う。
もう早速マスコミの取材攻勢や心無い人の嫌がらせが始まっているのだろう。
私は、「まあええやろ。やってしまえ。」と思ったときには、家族の顔を思い浮かべることにしている。
「患者さんが減らないようにする開業医のための本」というサブタイトルもあるが、「お金儲け」の方法を書いた本ではない。
日本のトップレベルの開業医が、経験、診療の注意、勉強について共著で短い言葉にまとめてある。
「プロジェクトX」の本の歯科医版と思っていただいたらよい。
私が20代〜30代にかけて教えていただいたり、コーヒーをおごっていただいたりした先生が故人となられ、その先生の最後の言葉も乗っている。
あのころ、食うや食わずで研修会に行っていた時代を懐かしく思い出す。
(21年前の私の初任給は20万円。土日に開かれるある程度の研修会に行けば、受講料はそのころでも10万円だった。一体どうやって生活していたのか自分でも不思議だ。)
昨日JRの大きな事故があったが、その件に絡めて朝スタッフに紹介した本の内容である。
私は、1978年にインプラントをはじめ、約2千5百本の手術を行ってきた。(還暦を過ぎてからはまったくやらないように決めた)幸い、大きなトラブルもなくインプラント歯科医を終えることができた。
手術の日は、模型上で必ずリハーサルして壁に貼った「インプラント手術の心得」を絶対に読んで手術に臨んでいた。
【壁張り紙】インプラント手術の心得
@診断をちゃんとやったか
A患者さんの体調はどうか
B自分自身が順調か(前夜の睡眠は十分か)
Cスタッフのリズムはどうか
D上顎の骨質は特に注意(ドリル)
E下顎の深さにも注意
Fうまくいかないと思ったら中止する勇気を持て
「NO」と言い切れる人こそ、勇気ある臆病を身につけた人である。
安全を神様に祈れ。
模型上のリハーサルというのはこういうこと。
このインプラントのケース。ここまでこぎつけるのに、これだけの模型を準備していった。
ステップごとに、きちんと順を追い、レントゲンで骨量を計測するための装置もある。
最終的にはインプラントを植える予定の部位の模型を切断し、実際にインプラントを位置させてみて手術の予想を立てる。
大事なことは、これでOK!OK!ということではない。
常に、「予想される問題点、起こりうる意外な状況は?」を考えている。
簡単に言えば、「もしこうだったら、こうしよう」を考えつづけること。
最終的には、「こうなったら、1本だけしか植えることができないな。」
「この場合は手術を中止しよう。」
「そうなったら、患者様にはこう説明しよう。」
ここまで考えなければならない。
インプラントの手術において「全て想定内」ということは決してありえない。
お口の中をちょっと見ただけで「インプラントはできますよ」と言うような歯科医が決して名医ではないのである。
私は手術1週間前から、暇があればこの模型をもって病院内をうろうろしている。
常に眺めて、イメージトレーニングをするのだ。
スタッフたちもそれを見ているので、すぐに理解した。
最後はこう締めくくった。
「私たちは、常に事故と隣り合わせの仕事をしている。
大事なことは、勇気ある撤退ができるかどうかだ。
『失敗をするより中断をすること』その決断ができるかどうかで優秀さが決まる。
『おかしいな』と思ったら、決してそのまま作業や治療を継続してはいけない。
まず、『おかしいなと思った』ことを誰かに話すこと。
『おかしく』なってから報告してもそれはもう遅い。
それで処理できなければ院長に上げること。
決してあやふやな状態で、何事も進行させてはいけない。」
昨日の事故でなくなられた方のご冥福を祈る。
遺族の方が一番辛いだろうが、運転手さんの家族も辛いと思う。
もう早速マスコミの取材攻勢や心無い人の嫌がらせが始まっているのだろう。
私は、「まあええやろ。やってしまえ。」と思ったときには、家族の顔を思い浮かべることにしている。
2005年01月03日
プランニング時に考えなくてはならないこと
あるとき、ハリウッドのあるヘアドレッサーのところに若い女優から電話がかかってきた。
スターが集まる大きなパーティーに行くのに、急いで髪をセットしてほしいというのだ。
ヘアドレッサーは女優の家に駆けつけた。彼女のドレスを一目見ると、ヘアドレッサーはドレスに合うリボンを用意して、仕事に取りかかった。
三十分ほどかけて、彼はブラシとリボンだけですばらしいヘアスタイルを仕上げた。
その女優に鏡を見せると、彼女は「まあ、すてき。どうもありがとう!おいくらかしら?」
と言った。
「三千ドルいただきます」と、ヘアドレッサー。
「なんですって!リボン一つに三千ドルも払えないわ。」
二人はにらみ合った。
「けっこう。」
そういうと、ヘアドレッサーはやおらリボンを女優の頭からむしり取った。
セットは崩れ、見るも無惨な姿になった。
リボンを女優に渡すと、彼は言った。
「リボンは無料です。」
(「その他大勢から抜け出す成功法則」ジョン・C・マクスウェル)
治療前、治療後の写真を並べると、セラミッククラウンや特殊な義歯の派手さばかりが目立ってしまいますが、私達が一番大切なことと思っていることは、こういうことなのです。
私たちがいただく治療費は、物の値段だけではないのです。
・その人を人間としていかに理解をするのか?
・虫歯や歯周病の原因をどのように理解していただくのか?
・虫歯や歯周病の予防の方法をどのように身に付けていただくのか?
これらが第一段階であり、次の2項目が本来治療の中で一番大事なことなのです。
・正確な検査
・合理的で、選択のできる治療計画の策定
「橋を設計し、圧力と緊張度を計算し、機械の仕様を策定できる技術者はいくらでもいる。しかし、偉大な技術者とは、橋なり、機械なりをつくるべきかどうか、どこに、いつ設置するべきかを指示できる人間だ。」
ベツレヘムスティール社元社長 ユージン・G・グレース
人により最適な治療法は変わります。
万人に全て共通する最善の治療法はありません。
また、受け入れていただける時期というものもあります。
これらを考慮にいれながら、お話の仕方も変えていかねばなりません。
検査が正確でなければ治療計画も間違ったものになってしまいます。
どんな素晴らしい計画も受け入れていただけなければ、それは無駄なことです。
私達がこの段階を最重要視するのはこういう理由からなのです。
冒頭のヘアドレッサーは、その女優の電話を受けた瞬間にヘアスタイルのプランが浮かび始め、実際に見た段階では最終のイメージが隅々まではっきり描かれていたはずです。
リボンはその象徴にすぎません。
そして、あとはそのイメージにしたがって、もちろん卓越した技術で仕上げたのでしょう。
女優はその発想力の価値を理解することができなかったのです。
私が最初にイメージするのは、治療終了直後のお口の中ではありません。
少なくても10年後のお口をイメージしながらプランニングを始めます。
この大皿を流しがけ(大皿に釉薬をたらして絵付けをする)するのに15秒もかかりません。
そこで訪問客は尋ねます。
「15秒もかからないのに、あなたの作品はなぜこんなに高価なのか?」
私は答えます。
「この作品を作るのに、私は60年と15秒もかかったのです。」
浜田庄司(陶芸家)
スターが集まる大きなパーティーに行くのに、急いで髪をセットしてほしいというのだ。
ヘアドレッサーは女優の家に駆けつけた。彼女のドレスを一目見ると、ヘアドレッサーはドレスに合うリボンを用意して、仕事に取りかかった。
三十分ほどかけて、彼はブラシとリボンだけですばらしいヘアスタイルを仕上げた。
その女優に鏡を見せると、彼女は「まあ、すてき。どうもありがとう!おいくらかしら?」
と言った。
「三千ドルいただきます」と、ヘアドレッサー。
「なんですって!リボン一つに三千ドルも払えないわ。」
二人はにらみ合った。
「けっこう。」
そういうと、ヘアドレッサーはやおらリボンを女優の頭からむしり取った。
セットは崩れ、見るも無惨な姿になった。
リボンを女優に渡すと、彼は言った。
「リボンは無料です。」
(「その他大勢から抜け出す成功法則」ジョン・C・マクスウェル)
治療前、治療後の写真を並べると、セラミッククラウンや特殊な義歯の派手さばかりが目立ってしまいますが、私達が一番大切なことと思っていることは、こういうことなのです。
私たちがいただく治療費は、物の値段だけではないのです。
・その人を人間としていかに理解をするのか?
・虫歯や歯周病の原因をどのように理解していただくのか?
・虫歯や歯周病の予防の方法をどのように身に付けていただくのか?
これらが第一段階であり、次の2項目が本来治療の中で一番大事なことなのです。
・正確な検査
・合理的で、選択のできる治療計画の策定
「橋を設計し、圧力と緊張度を計算し、機械の仕様を策定できる技術者はいくらでもいる。しかし、偉大な技術者とは、橋なり、機械なりをつくるべきかどうか、どこに、いつ設置するべきかを指示できる人間だ。」
ベツレヘムスティール社元社長 ユージン・G・グレース
人により最適な治療法は変わります。
万人に全て共通する最善の治療法はありません。
また、受け入れていただける時期というものもあります。
これらを考慮にいれながら、お話の仕方も変えていかねばなりません。
検査が正確でなければ治療計画も間違ったものになってしまいます。
どんな素晴らしい計画も受け入れていただけなければ、それは無駄なことです。
私達がこの段階を最重要視するのはこういう理由からなのです。
冒頭のヘアドレッサーは、その女優の電話を受けた瞬間にヘアスタイルのプランが浮かび始め、実際に見た段階では最終のイメージが隅々まではっきり描かれていたはずです。
リボンはその象徴にすぎません。
そして、あとはそのイメージにしたがって、もちろん卓越した技術で仕上げたのでしょう。
女優はその発想力の価値を理解することができなかったのです。
私が最初にイメージするのは、治療終了直後のお口の中ではありません。
少なくても10年後のお口をイメージしながらプランニングを始めます。
この大皿を流しがけ(大皿に釉薬をたらして絵付けをする)するのに15秒もかかりません。
そこで訪問客は尋ねます。
「15秒もかからないのに、あなたの作品はなぜこんなに高価なのか?」
私は答えます。
「この作品を作るのに、私は60年と15秒もかかったのです。」
浜田庄司(陶芸家)
2005年01月01日
今年のテーマ
今年一年のテーマを考えていました。
診療室全体がやさしい雰囲気に包まれるような言葉が何かないかと・・・
「smile」
としようと思いましたが、単純すぎるので、
smile a friendry smile
とします。
「親しげに微笑む。」という意味です。
略してSFSとなります。
今年もよろしくお願いします。
診療室全体がやさしい雰囲気に包まれるような言葉が何かないかと・・・
「smile」
としようと思いましたが、単純すぎるので、
smile a friendry smile
とします。
「親しげに微笑む。」という意味です。
略してSFSとなります。
今年もよろしくお願いします。
2004年12月12日
価値観
私の病院では、あなたの「価値観」を最大限に重要視します。
では価値観とは何か?
これほど多様なものはありません。
その例として、ハイラム・W・スミスの「心の安らぎを発見する時間管理の探求」から、セミナーでの著者の経験を短くしてご紹介します。
私はセミナーで価値観を明確に認識させるためにこんなシナリオを話す。
私はあなたの友達だ。ある日、私はあなたの家の前の道路に、35メートルほどの鉄骨を運び、あなたを呼び出す。そしてあなたを鉄骨の端に立たせ、私はもう一方の端に立つ。
そして、財布の中から100ドル札を取り出してヒラヒラさせながら、あなたに、
『2分以内にその鉄骨の上を落ちないで、こちらに渡ってこられたら100ドルあげますよ。』
あなたは渡るだろうか?
これまでやってきたセミナーで、渡らないと言った人は1人だけだった。
ここでシナリオを少し変えてみよう。
私はこの鉄骨を世界貿易センタービルに運ぶ。
この地上415メートルのツインタワーの間にこの鉄骨をボルトで固定する。鉄骨は長いので、少したわんでいる。天気は雨。風速20メートル。でも、眺めは素晴らしい。
『聞こえますか?2分以内にこちらに渡ってこられたら100ドルあげます。』
1万ドル、10万ドル、100万ドルと言っても『渡る』といった人は一人もいない。
今度は打って変わって、私は悪役になる。
あなたの2歳の子供を誘拐し、一方のタワーの屋上で、娘さんの髪をつかんで立っている。
『聞こえるか?こっちに渡って来い。来なかったら娘は下に落とすぞ。』
あなたはどう答えるだろうか?
あるとき、この演習に参加してもらう人選に失敗した。10代の子供を持つ母親を選んでしまったのだ。私が『来なかったら娘は下に落とすぞ。』と言うと彼女はこう言った。
『突き落として。』
おかげでセミナーはめちゃめちゃになってしまった。
この苦い経験から、私は、2歳の幼児を持つ人を選ぶようにした。
あるとき、このような女性(テレサ)にこの一連の質問を始めた。
『100ドルで渡りますか?』から始まり、
『来なかったら娘は下に落とすぞ。』の質問をした。
普通は100回のうち99回は同じ答えが帰ってくる。『もちろん渡ります。』
その答えを受けて、私はその意味を説明する。つまりその人の価値観を特定するのだ。
しかし、テレサはその場に座ったまま、ただ黙っている。
しばらくして、悲しげに、
『いいえ。渡らないと思います。』
会場にいた人は言葉を失った。
この思いもよらない返事には説明が必要だと彼女は思ったようで、こう付け加えた。
『お分かりいただきたいのですが、私にはほかに11人の子供がいます。この2歳の子のために命をささげたら、ほかの11人の子供の面倒は誰が見てくれるのでしょうか?』
私はその日、何とか価値観について説明し、セミナーを最後まで進めることができた。しかしテレサは、鉄骨の一件がよほどこたえたらしく、セミナーの残りの時間ずっと涙を流しながら、私の話は全く耳に入らない様子だった。それは私にとっても彼女にとっても心の痛むことだった。
そして、セミナーが終わると、私のところにやって来て、こう言ったのである。
『私がここで初めて体験したことをお話ししなければいけないと思います。あなたが屋上から落とすと言った2歳の子はダウン症の子なんです。あなたに言われて、私は自分があの子のことをほかの子と同じようには愛していないということに気づいたんです。それが、シヨックでした。ほかの子だったらすぐに「渡ります」って言えたはずです。でもあの子はいくつもの精神障害を抱えていて、心からあの子を愛することが難しいんです。』
あの経験からすぐあとのことになるが、香港でのダウケミカル社主催の公開セミナーで、85名ほどの参加者を前にして話をすることがあった。この原則を外国で教えると、おもしろいことが起こる。 文化が違うし、道徳というものに対するものの見方が違うからだ。
2歳の子供を持つ人を募るところにきて、インドの二ユーデリーから釆た男性が手を挙げた。私は鉄骨を床に置いて財布から20ドル札を取り出し、尋ねた。
『あなたは20ドルで鉄骨を渡りますか』
彼はしばらく考えていたが、こう答えた。
『いいえ、渡りません。』
意外だった。それで100ドルに値上げした。彼は渡らない。千ドル、一万ドルと上げたが駄目である。いくら値を吊り上げても渡らないのだ。
『間違った人を選んでしまったようですね。なぜ渡らないか教えていただけますか?』
『私はお金のために自分の行動を左右されたくありません。』
私は別の人を選んだ。中国から来た男性である。初めからシナリオを紹介して、世界貿易センタービルに案内した。そして彼の2歳の子供を屋上の端のところに連れて行くシーンになった。やがてクライマックスが訪れて、その中国人の男性に、『2歳の子供を救うために鉄骨を渡りますか?』と尋ねると、中国人の男性は即座に「もちろん渡ります」と答えた。
それから私は、あのインド人の男性のほうを向いて、『あなたは渡りますか?』と訊いた。はっきりした答えがすぐに返ってきた。
『渡ります。』
私はしばらく彼の顔を見つめたあとでこう言った。
『おもしろいですね。あなたは床の上に鉄骨があったときは、いくらお金を出しても渡らなかった。でも、お子さんのためなら地上400メートル以上の高さを渡るとおっしゃる。私が何を言いたいかお分かりですね。』
最後はコカ・コーラ社の副社長との間でおこったことである。
セミナー初日も終わり近くになり、鉄骨の話が終わった。全員が心を動かされた様子だったが、ほとんどの人が退室したあとで、この副社長がやって来た。怒りで顔が青ざめている。
『私は時間管理のセミナーにきたんです。宗教の話を聞きにきたつもりはない。』
彼にとって何が不満だったのかはよく分かった。しかし、私はそのときの自分の答に我ながら驚いた。実際のところ、私は自分の言葉が信じられなかった。私は彼の目を見てこう言ったのである。
『待ってください。取り返しのつかないことをおっしゃる前に、家に帰って今晩、鉄骨を渡る理由になるものが何かないか考えてみてください。なければ明日はおいでにならなくても結構です。受講料はお返しいたします。』
彼は、『分かったよ。八イラム』と言って、荒々しい勢いで部屋を飛び出して行った。
とてもいやな経験だった。その晩私はなかなか眠れなかった。
翌朝、私は7時30分に会場に着いた。スタート時刻の一時間前である。オーバーヘッド用のスライドをそろえていると、その副社長がやって来た。開始45分前だ。彼は何も言わず中央の列を進んで来て、一番前の席に座り込んだ。振り返って彼を見ると、私をにらみつけている。私は身体が硬直するのを覚えた。
彼は言った。
『ちくしよう!』
『どうしたんですか?』
私は尋ねた。
『あのくだらない鉄骨を渡る理由になるものがあったんだよ。』
私は言った。
『あなたがどんなパックグラウンドをお持ちなのかは知りませんが、誰にでも基本的な価値観があるのです。』
すると彼は肩の力が抜けた素振りで、私が忘れることのできない言葉を口に出した。
『なあ、ハイラム。私は自分の価値観に対して何ひとつ行動していないんだ。』
彼は自分の人生の中で大切なものを見つけたのだが、それに注意を向けていなかったことも同時に分かったのである。
私たちはセミナー前の30分、そして終わってからの1時間、−緒に座って話し合った。その話し合いの中で分かったことは、彼がやっかいな離婚話の中にあるということだった。互いに弁護士が介入して話が進められていた。
これはあとで分かったことだが、彼は自分の価値観を書き留めて、仲たがいをしている奥さんと直接会う約束を取った。そして、自分が書き留めた価値感を奥さんに見せたのである。奥さんは腰を抜かさんばかりに驚いた。そしてその話合いのあとで、今度は奥さんが自分の価値観をまとめた。再度会って二人の価値観を比較してみると、ほとんど同じだった(ここで強調しておくが、異なった2人の価値観が全く同じであることは決してない)。二人がよりを戻したことは驚くには及ばない。
私の言いたいのはこのことなのだ。
『誰にでも価値観がある』
しかし、価値観というものは人によって違う。子供の頃の生活やこれまでの経験、持っている才能や興味、性格によって異なってくる。だからこそ、「こういう価値観を持ちなさい」とは言えないのだ。
私の望みは、自分の価値観を見つけ、それを日々の行動と計画に活かせるように助けることにある。
なぜならば、あなたにも『心の安らぎ』を味わってもらいたいからである。
事例のみを抜粋してありますので、個々の事例に関する考察は省いてあります。
これを紹介した意味は、とにかく価値観というものがどれだけ多様であるかということ、また、どの価値観も間違いとは言えないということです。
そして、一番におわかりいただきたいのは、私がこのことを深く理解しているということです。
私のホームページ、ブログに載っている症例は特別なもののように見えるかもわかりませんが、決して私が『こうしなさい。』と押し付けたわけではありません。
もしあなたが治療に来られたら、
「どうしますか?この痛みのある歯だけ治療しますか?
それとも、全体の検査をしてからご説明をしましょうか?」
の質問から始まります。
「この歯だけでいいです。」とあなたが答えた場合は、その歯の治療だけで終わります。
もちろん、私の価値観から言うと、やはり全体の歯をきちんと検査し、治療プランを立て、効率的に治療を進め、そして定期的なメインテナンスを続けていくことが最もよいことだと思います。
しかし、そうしたくても、「仕事が忙しい。」「体調が悪い。」「小さい子供がいる。」「親の介護をしなければいけない。」いろいろなご事情があります。
それはそれで遠慮せず言っていただければ、その事情にあったアドバイスが出来るのです。
では、全体の検査をしたとしましょう。
そこで私が質問することは、
「あなたの治療のゴールのイメージはどのようなものですか?」
「例えば、右下の歯の無い部分には、入れ歯を入れたいですか?インプラントをしたいですか?」
「前歯の色が変わっていますがそれは治療したいと思っていますか?その歯はさわらないほうがいいですか?」
「全て健康保険の範囲で治療をしたいですか?それとも保険外の治療を希望されますか?その場合どれくらいの予算を考えておられますか?」
といったようなことです。それをお聞きしてからプランニングに入ります。
しかしここで困るのは、自分自身の歯に対する価値観を持っておられないか、明確に説明していただけない場合です。
先月、ある社長さんが治療にお見えになりました。ある歯科業界のメーカーの社長さんからのご紹介でした。
検査が終わり、当然、上記のような質問をしました。
どのような質問をしても、
「費用もふくめて、先生が一番いいと思う治療法を私に提案してください。」
とお答えになります。経験から言うと、こういう場合は、反対に注意が必要なのです。
価値観がはっきりしていない場合が多いのです。
「治療プラン」のカテゴリーにあるように、プランニングをしました。延べにして10時間ほどかけて模型をつくり、費用の明細書も用意しました。
セラミッククラウン、インプラントを含む治療になるケースでしたので、治療費は高額になります。
ご説明の当日、書類と模型をその方の横において、私はこの言葉から始めました。
「最上のプランを作りました。しかし、これはあくまで私のプランです。治療を受けられるのはあなたですから、このプランをベースにして、ここはどうしよう、ああしようと一緒に考えていきましょう。」
そのとき、このかたはちらりと治療費の明細を見られたのでしょう。かなり狼狽された様子で、
「先生。すべて健康保険で治療をしてください。」
「それは全く問題ありませんが、その場合ほとんど選択肢はなくなります。ぐらぐらの歯は抜いて、あとは入れ歯になります。それでよろしいか?」
「はい。」
そこで、衛生士にタッチして、プラークコントロールの説明と練習に入りました。
それが終わって私を衛生士が呼びにきました。
「先生。〜さんがお話があるそうです。」
「先生。さっきは健康保険でとお願いしましたが、分割でもかまいませんか?月に×万円ぐらいならお支払いできます。」
「結構ですよ。では総額のご予算はどれぐらいをお考えですか?」
「○万円ぐらいでしょうか。○万円でしたら分割でなくてもお支払いが出来ます。」
「わかりました。それでは、ここをこうして、こうしたらそのご予算になります。」
「それでお願いします。」
その次のご予約の日の朝。この方からの電話を衛生士が取りました。
「先生。〜さんからお電話があって、『家族とも相談しましたが、治療はお断りしたいのです。ここまでしていただいた先生に大変ご迷惑をおかけしたことをお詫びします。』とのことでした。」
もちろんインプラント1本の治療費がこの方の予想以上だったのかもわかりませんし、他の経済的な理由があったのかもしれません。
こういう事例はお互いにとって大変不幸なことです。
私は先月は1日も休みが取れませんでしたので、その中であの1日が休めていたら・・・とも思いますが、この方もかなり傷つかれたと思います。
もちろん、どちらが良い悪いといった議論をすべきことでもありません。
ただ、この方は価値観の大事さに気づく前のコカ・コーラの副社長だったわけです。
安心して治療を受ける、治療をするためには、やはり歯にどのような価値観を持っているのかを、お互いにはっきりと理解しておくことが重要だと思っています。
その価値観はその方独自のものですし、ここまで述べてきたように善悪を区別するものではありません。
私は、価値観をはっきりさせていただいた上で、あなたにも『心の安らぎ』を味わってもらいたいと思っています。
では価値観とは何か?
これほど多様なものはありません。
その例として、ハイラム・W・スミスの「心の安らぎを発見する時間管理の探求」から、セミナーでの著者の経験を短くしてご紹介します。
私はセミナーで価値観を明確に認識させるためにこんなシナリオを話す。
私はあなたの友達だ。ある日、私はあなたの家の前の道路に、35メートルほどの鉄骨を運び、あなたを呼び出す。そしてあなたを鉄骨の端に立たせ、私はもう一方の端に立つ。
そして、財布の中から100ドル札を取り出してヒラヒラさせながら、あなたに、
『2分以内にその鉄骨の上を落ちないで、こちらに渡ってこられたら100ドルあげますよ。』
あなたは渡るだろうか?
これまでやってきたセミナーで、渡らないと言った人は1人だけだった。
ここでシナリオを少し変えてみよう。
私はこの鉄骨を世界貿易センタービルに運ぶ。
この地上415メートルのツインタワーの間にこの鉄骨をボルトで固定する。鉄骨は長いので、少したわんでいる。天気は雨。風速20メートル。でも、眺めは素晴らしい。
『聞こえますか?2分以内にこちらに渡ってこられたら100ドルあげます。』
1万ドル、10万ドル、100万ドルと言っても『渡る』といった人は一人もいない。
今度は打って変わって、私は悪役になる。
あなたの2歳の子供を誘拐し、一方のタワーの屋上で、娘さんの髪をつかんで立っている。
『聞こえるか?こっちに渡って来い。来なかったら娘は下に落とすぞ。』
あなたはどう答えるだろうか?
あるとき、この演習に参加してもらう人選に失敗した。10代の子供を持つ母親を選んでしまったのだ。私が『来なかったら娘は下に落とすぞ。』と言うと彼女はこう言った。
『突き落として。』
おかげでセミナーはめちゃめちゃになってしまった。
この苦い経験から、私は、2歳の幼児を持つ人を選ぶようにした。
あるとき、このような女性(テレサ)にこの一連の質問を始めた。
『100ドルで渡りますか?』から始まり、
『来なかったら娘は下に落とすぞ。』の質問をした。
普通は100回のうち99回は同じ答えが帰ってくる。『もちろん渡ります。』
その答えを受けて、私はその意味を説明する。つまりその人の価値観を特定するのだ。
しかし、テレサはその場に座ったまま、ただ黙っている。
しばらくして、悲しげに、
『いいえ。渡らないと思います。』
会場にいた人は言葉を失った。
この思いもよらない返事には説明が必要だと彼女は思ったようで、こう付け加えた。
『お分かりいただきたいのですが、私にはほかに11人の子供がいます。この2歳の子のために命をささげたら、ほかの11人の子供の面倒は誰が見てくれるのでしょうか?』
私はその日、何とか価値観について説明し、セミナーを最後まで進めることができた。しかしテレサは、鉄骨の一件がよほどこたえたらしく、セミナーの残りの時間ずっと涙を流しながら、私の話は全く耳に入らない様子だった。それは私にとっても彼女にとっても心の痛むことだった。
そして、セミナーが終わると、私のところにやって来て、こう言ったのである。
『私がここで初めて体験したことをお話ししなければいけないと思います。あなたが屋上から落とすと言った2歳の子はダウン症の子なんです。あなたに言われて、私は自分があの子のことをほかの子と同じようには愛していないということに気づいたんです。それが、シヨックでした。ほかの子だったらすぐに「渡ります」って言えたはずです。でもあの子はいくつもの精神障害を抱えていて、心からあの子を愛することが難しいんです。』
あの経験からすぐあとのことになるが、香港でのダウケミカル社主催の公開セミナーで、85名ほどの参加者を前にして話をすることがあった。この原則を外国で教えると、おもしろいことが起こる。 文化が違うし、道徳というものに対するものの見方が違うからだ。
2歳の子供を持つ人を募るところにきて、インドの二ユーデリーから釆た男性が手を挙げた。私は鉄骨を床に置いて財布から20ドル札を取り出し、尋ねた。
『あなたは20ドルで鉄骨を渡りますか』
彼はしばらく考えていたが、こう答えた。
『いいえ、渡りません。』
意外だった。それで100ドルに値上げした。彼は渡らない。千ドル、一万ドルと上げたが駄目である。いくら値を吊り上げても渡らないのだ。
『間違った人を選んでしまったようですね。なぜ渡らないか教えていただけますか?』
『私はお金のために自分の行動を左右されたくありません。』
私は別の人を選んだ。中国から来た男性である。初めからシナリオを紹介して、世界貿易センタービルに案内した。そして彼の2歳の子供を屋上の端のところに連れて行くシーンになった。やがてクライマックスが訪れて、その中国人の男性に、『2歳の子供を救うために鉄骨を渡りますか?』と尋ねると、中国人の男性は即座に「もちろん渡ります」と答えた。
それから私は、あのインド人の男性のほうを向いて、『あなたは渡りますか?』と訊いた。はっきりした答えがすぐに返ってきた。
『渡ります。』
私はしばらく彼の顔を見つめたあとでこう言った。
『おもしろいですね。あなたは床の上に鉄骨があったときは、いくらお金を出しても渡らなかった。でも、お子さんのためなら地上400メートル以上の高さを渡るとおっしゃる。私が何を言いたいかお分かりですね。』
最後はコカ・コーラ社の副社長との間でおこったことである。
セミナー初日も終わり近くになり、鉄骨の話が終わった。全員が心を動かされた様子だったが、ほとんどの人が退室したあとで、この副社長がやって来た。怒りで顔が青ざめている。
『私は時間管理のセミナーにきたんです。宗教の話を聞きにきたつもりはない。』
彼にとって何が不満だったのかはよく分かった。しかし、私はそのときの自分の答に我ながら驚いた。実際のところ、私は自分の言葉が信じられなかった。私は彼の目を見てこう言ったのである。
『待ってください。取り返しのつかないことをおっしゃる前に、家に帰って今晩、鉄骨を渡る理由になるものが何かないか考えてみてください。なければ明日はおいでにならなくても結構です。受講料はお返しいたします。』
彼は、『分かったよ。八イラム』と言って、荒々しい勢いで部屋を飛び出して行った。
とてもいやな経験だった。その晩私はなかなか眠れなかった。
翌朝、私は7時30分に会場に着いた。スタート時刻の一時間前である。オーバーヘッド用のスライドをそろえていると、その副社長がやって来た。開始45分前だ。彼は何も言わず中央の列を進んで来て、一番前の席に座り込んだ。振り返って彼を見ると、私をにらみつけている。私は身体が硬直するのを覚えた。
彼は言った。
『ちくしよう!』
『どうしたんですか?』
私は尋ねた。
『あのくだらない鉄骨を渡る理由になるものがあったんだよ。』
私は言った。
『あなたがどんなパックグラウンドをお持ちなのかは知りませんが、誰にでも基本的な価値観があるのです。』
すると彼は肩の力が抜けた素振りで、私が忘れることのできない言葉を口に出した。
『なあ、ハイラム。私は自分の価値観に対して何ひとつ行動していないんだ。』
彼は自分の人生の中で大切なものを見つけたのだが、それに注意を向けていなかったことも同時に分かったのである。
私たちはセミナー前の30分、そして終わってからの1時間、−緒に座って話し合った。その話し合いの中で分かったことは、彼がやっかいな離婚話の中にあるということだった。互いに弁護士が介入して話が進められていた。
これはあとで分かったことだが、彼は自分の価値観を書き留めて、仲たがいをしている奥さんと直接会う約束を取った。そして、自分が書き留めた価値感を奥さんに見せたのである。奥さんは腰を抜かさんばかりに驚いた。そしてその話合いのあとで、今度は奥さんが自分の価値観をまとめた。再度会って二人の価値観を比較してみると、ほとんど同じだった(ここで強調しておくが、異なった2人の価値観が全く同じであることは決してない)。二人がよりを戻したことは驚くには及ばない。
私の言いたいのはこのことなのだ。
『誰にでも価値観がある』
しかし、価値観というものは人によって違う。子供の頃の生活やこれまでの経験、持っている才能や興味、性格によって異なってくる。だからこそ、「こういう価値観を持ちなさい」とは言えないのだ。
私の望みは、自分の価値観を見つけ、それを日々の行動と計画に活かせるように助けることにある。
なぜならば、あなたにも『心の安らぎ』を味わってもらいたいからである。
事例のみを抜粋してありますので、個々の事例に関する考察は省いてあります。
これを紹介した意味は、とにかく価値観というものがどれだけ多様であるかということ、また、どの価値観も間違いとは言えないということです。
そして、一番におわかりいただきたいのは、私がこのことを深く理解しているということです。
私のホームページ、ブログに載っている症例は特別なもののように見えるかもわかりませんが、決して私が『こうしなさい。』と押し付けたわけではありません。
もしあなたが治療に来られたら、
「どうしますか?この痛みのある歯だけ治療しますか?
それとも、全体の検査をしてからご説明をしましょうか?」
の質問から始まります。
「この歯だけでいいです。」とあなたが答えた場合は、その歯の治療だけで終わります。
もちろん、私の価値観から言うと、やはり全体の歯をきちんと検査し、治療プランを立て、効率的に治療を進め、そして定期的なメインテナンスを続けていくことが最もよいことだと思います。
しかし、そうしたくても、「仕事が忙しい。」「体調が悪い。」「小さい子供がいる。」「親の介護をしなければいけない。」いろいろなご事情があります。
それはそれで遠慮せず言っていただければ、その事情にあったアドバイスが出来るのです。
では、全体の検査をしたとしましょう。
そこで私が質問することは、
「あなたの治療のゴールのイメージはどのようなものですか?」
「例えば、右下の歯の無い部分には、入れ歯を入れたいですか?インプラントをしたいですか?」
「前歯の色が変わっていますがそれは治療したいと思っていますか?その歯はさわらないほうがいいですか?」
「全て健康保険の範囲で治療をしたいですか?それとも保険外の治療を希望されますか?その場合どれくらいの予算を考えておられますか?」
といったようなことです。それをお聞きしてからプランニングに入ります。
しかしここで困るのは、自分自身の歯に対する価値観を持っておられないか、明確に説明していただけない場合です。
先月、ある社長さんが治療にお見えになりました。ある歯科業界のメーカーの社長さんからのご紹介でした。
検査が終わり、当然、上記のような質問をしました。
どのような質問をしても、
「費用もふくめて、先生が一番いいと思う治療法を私に提案してください。」
とお答えになります。経験から言うと、こういう場合は、反対に注意が必要なのです。
価値観がはっきりしていない場合が多いのです。
「治療プラン」のカテゴリーにあるように、プランニングをしました。延べにして10時間ほどかけて模型をつくり、費用の明細書も用意しました。
セラミッククラウン、インプラントを含む治療になるケースでしたので、治療費は高額になります。
ご説明の当日、書類と模型をその方の横において、私はこの言葉から始めました。
「最上のプランを作りました。しかし、これはあくまで私のプランです。治療を受けられるのはあなたですから、このプランをベースにして、ここはどうしよう、ああしようと一緒に考えていきましょう。」
そのとき、このかたはちらりと治療費の明細を見られたのでしょう。かなり狼狽された様子で、
「先生。すべて健康保険で治療をしてください。」
「それは全く問題ありませんが、その場合ほとんど選択肢はなくなります。ぐらぐらの歯は抜いて、あとは入れ歯になります。それでよろしいか?」
「はい。」
そこで、衛生士にタッチして、プラークコントロールの説明と練習に入りました。
それが終わって私を衛生士が呼びにきました。
「先生。〜さんがお話があるそうです。」
「先生。さっきは健康保険でとお願いしましたが、分割でもかまいませんか?月に×万円ぐらいならお支払いできます。」
「結構ですよ。では総額のご予算はどれぐらいをお考えですか?」
「○万円ぐらいでしょうか。○万円でしたら分割でなくてもお支払いが出来ます。」
「わかりました。それでは、ここをこうして、こうしたらそのご予算になります。」
「それでお願いします。」
その次のご予約の日の朝。この方からの電話を衛生士が取りました。
「先生。〜さんからお電話があって、『家族とも相談しましたが、治療はお断りしたいのです。ここまでしていただいた先生に大変ご迷惑をおかけしたことをお詫びします。』とのことでした。」
もちろんインプラント1本の治療費がこの方の予想以上だったのかもわかりませんし、他の経済的な理由があったのかもしれません。
こういう事例はお互いにとって大変不幸なことです。
私は先月は1日も休みが取れませんでしたので、その中であの1日が休めていたら・・・とも思いますが、この方もかなり傷つかれたと思います。
もちろん、どちらが良い悪いといった議論をすべきことでもありません。
ただ、この方は価値観の大事さに気づく前のコカ・コーラの副社長だったわけです。
安心して治療を受ける、治療をするためには、やはり歯にどのような価値観を持っているのかを、お互いにはっきりと理解しておくことが重要だと思っています。
その価値観はその方独自のものですし、ここまで述べてきたように善悪を区別するものではありません。
私は、価値観をはっきりさせていただいた上で、あなたにも『心の安らぎ』を味わってもらいたいと思っています。
2004年12月10日
プラークコントロール
初診時の状態。
虫歯があるのはお分かりになると思いますが、一見するときれいにされているようにみえます。
しかし、虫歯の原因は食べかすではありません。これは90%以上の方が誤解されていることです。
虫歯の原因はプラークと呼ばれるものを構成する細菌が出す酸によります。
この赤く染まった部分がプラークです。
理科系の勉強をされた方なら、細菌の観察をするときに染色をして、細菌に色をつけて顕微鏡で観察したことがあると思います。
これも同じものと考えていただいてかまいません。
つまり、この赤い部分はほとんどが細菌の塊なのです。
通常お口の中には、300種類、数千億個の口腔内常在菌がいます。
私たちは、ブラッシングとは言いません。「プラークコントロール」と言います。
なぜなら、このような部分のプラークを歯ブラシだけで除去することは不可能だからです。
プラークコントロールの主力はこのフロスです。
もちろん、ブラシも使います。
当てる位置、角度をしっかり練習します。
私の病院では、治療に先立ち、プラークの詳しい内容をプロジェクターなどを使ってご説明し、実際にやっていただいて、お口のなかから虫歯や歯周病の原因を、患者様自身が取り除けるようになってから治療を始めます。(もちろん、咬みにくいとか、見た目が悪い部分があれば、仮の歯などを作ってからですが)
そこで、どうしてもプラークコントロールができない方、フロスをするのが面倒だ、というような患者様にはどうするか?
ここで『自己責任』です。
「○○さん。フロスは面倒ですか?」
「うーん。ちょっとねー。」
「ではもうこちらでは、プラークコントロールのお話はしないほうがよいですか?」
「そうやねー。」
「わかりました。それでは治療に入っていきますが、○○さんのお口になかには、虫歯と歯周病の原因が残ったままです。
ということは、これから私が治療をしますが、またその歯が悪くなる確率はかなり高いと言うことはお分かりいただけますね。」
「はい。」
「それでは、次回から治療をはじめます。」
というやりとりになるだけのことです。
プラークコントロールが終了しました。
治療しました。
後は、定期的に来ていただいて、プラークコントロールはできているか?虫歯ができていないか?歯周病は進行していないか?などを担当の歯科衛生士がチェックし、そして歯石を取ったりといったメインテナンスを続けていくことになります。
2004年12月05日
医者の教養と人格
京都大学の元総長 岡本道雄氏が「人生はわからない」を出版された。
医学部出身の岡本氏が90歳になって、脊髄血管梗塞で倒れ、その闘病生活の記録と感想である。
そのなかで、
「医者にとって大切なことは教養、そして人格だ。」
と書かれている。
9年ほどまえであるが、私の師のK先生が、東京で「歯科医療を考える」という一般参加もあるシンポジウムを開催した。
そのなかで、K先生が作られている患者の会の会長(ある科学系の学会の元会長)が開口一番、
「歯科医と言うものには教養が無い。」
とおっしゃられ、私は大きくうなずいた。
私は歯科医の最大の某組織に所属はしているが、参加はしない。
この、宴会はひどい。お酒が入ると、車か、ゴルフか、〜の話しかない。そして、酔ったときの振る舞い方は、恥ずかしくてとても一緒に座ってられるものではない。
宴たけなわ。ある仲居さんがお皿をさげながらつぶやいた一言。
「これが先生か・・・」
学会等のあとの懇親会にもまず行かない。
切った、貼った、どんなインプラントをいれた。治療費をいくらもらった・・・こんな話ばかりである。
10年前、アメリカのパンキー研究所での講義で教わったことが私の診療の基本となっている。
「あなた方は歯科医です。歯を治すことが仕事です。
しかし、歯が一人で歩いてきてあなたの診療室のドアをノックしますか?
歯は、必ず患者様の口にはえた状態でやってきます。
ここで、患者様は『この歯を治しておいてください』と言って、歯だけを置いていってくれますか?
あなた方は、歯を患者様と共に治療しなければならないのです。
あなたが治療するのは患者様そのものなのですよ。」
私の師K先生。
「あなたの目の前に座っている患者様。
一番大事なことは、その人の歯がどういう状態かなのではなく、その人がどういう人か?どういう思いを持っているのか?それを理解することが一番大事なことなのです。
そのためには、本を読みなさい。映画を見なさい、ドラマを見て泣きなさい。人と会話をしなさい。
人間を理解する能力を向上させなさい。
その上で、もしあなたがその人を治療するのを嫌だと思えば、それは許されることです。」
永 六輔さんの「大往生 」の中にこんな言葉があったと思う。
「私は、何歳になっても芝居を見て、コンサートに行くような先生を名医だと思う。」
K先生。
「右脳と左脳。技術と知能。どちらも同じように大事です。」
これが私がいつも考えていることです。
医学部出身の岡本氏が90歳になって、脊髄血管梗塞で倒れ、その闘病生活の記録と感想である。
そのなかで、
「医者にとって大切なことは教養、そして人格だ。」
と書かれている。
9年ほどまえであるが、私の師のK先生が、東京で「歯科医療を考える」という一般参加もあるシンポジウムを開催した。
そのなかで、K先生が作られている患者の会の会長(ある科学系の学会の元会長)が開口一番、
「歯科医と言うものには教養が無い。」
とおっしゃられ、私は大きくうなずいた。
私は歯科医の最大の某組織に所属はしているが、参加はしない。
この、宴会はひどい。お酒が入ると、車か、ゴルフか、〜の話しかない。そして、酔ったときの振る舞い方は、恥ずかしくてとても一緒に座ってられるものではない。
宴たけなわ。ある仲居さんがお皿をさげながらつぶやいた一言。
「これが先生か・・・」
学会等のあとの懇親会にもまず行かない。
切った、貼った、どんなインプラントをいれた。治療費をいくらもらった・・・こんな話ばかりである。
10年前、アメリカのパンキー研究所での講義で教わったことが私の診療の基本となっている。
「あなた方は歯科医です。歯を治すことが仕事です。
しかし、歯が一人で歩いてきてあなたの診療室のドアをノックしますか?
歯は、必ず患者様の口にはえた状態でやってきます。
ここで、患者様は『この歯を治しておいてください』と言って、歯だけを置いていってくれますか?
あなた方は、歯を患者様と共に治療しなければならないのです。
あなたが治療するのは患者様そのものなのですよ。」
私の師K先生。
「あなたの目の前に座っている患者様。
一番大事なことは、その人の歯がどういう状態かなのではなく、その人がどういう人か?どういう思いを持っているのか?それを理解することが一番大事なことなのです。
そのためには、本を読みなさい。映画を見なさい、ドラマを見て泣きなさい。人と会話をしなさい。
人間を理解する能力を向上させなさい。
その上で、もしあなたがその人を治療するのを嫌だと思えば、それは許されることです。」
永 六輔さんの「大往生 」の中にこんな言葉があったと思う。
「私は、何歳になっても芝居を見て、コンサートに行くような先生を名医だと思う。」
K先生。
「右脳と左脳。技術と知能。どちらも同じように大事です。」
これが私がいつも考えていることです。


