さて、歯を抜きたくない感情はどなたにもあります。
私はそれをよく理解していますし、その感情を意味のないものと思ったりはしていません。
ただ歯科医としては、「そんなに抜きたくないのなら、なぜもっと早く治療を・・・」と思う気持ちはあります。
また、患者様にそう言うと、「いや〜。わかってはいたんですがどうしても・・・」とお返事が返ってきます。
そのときはそっと心の中でつぶやきます。
『そんなら、もうアキラメをつけてよ。』
これも私の感情ですので、否定はしないでくださいね。
もちろん決して口には出しませんが。
では、なぜ歯を抜かないといけないのでしょう?
私が何を基準にして「抜歯が必要」と判断しているかということです。
まず第一に、もう歯がグラグラになって、咬むこともできない状態になっている歯でしょう。
このような場合はあまり問題がありません。
患者様自身が「抜いて欲しい」とおっしゃいますから。
それでも・・・・・
「これを抜かずに治して欲しい」と3時間かけてこられた患者様もいらっしゃいます。
この上の前歯は息をするだけで動きます。
もうこうなると「抜きたくない感情」というより、魔法の治療法を探しておられるのでしょう。
それは神様でも難しい。
では次の抜歯の基準は?
三浦綾子さんの小説に「裁きの家」というのがあります。
中学生のときに読んだと思うのですが、その中に「小事に忠実なものは大事にも忠実なり。」という言葉があり、それは私の心にずっと残っています。
つまり、「小さいことをきちんとやっていく人は、大きなこともちゃんとできる」と言う意味です。
私はよく「細かい」と言われます。(笑)
小さいこと、細かいことをおろそかにしては、決していい結果はでないと思いますから。
スタッフを教育するときも、「いいか。こういう細かいことを疎かにしてはいけない。これが最終的な完成度につながる。」と言い聞かせます。
確かに1本1本の歯を大切にすることは重要なことです。
それがお口全体の健康を守ることにつながりますから。
でも、「木を見て森を見ず」という言葉もありますよね。
ここで一例をあげます。
■の歯も、●の歯も状態が良くありません。
特に■の歯は重度の歯周病が進行しています。
歯の根の周りの骨(すりガラスのように写っている部分)が大きく吸収しています。
歯周病菌が出す毒素で骨が溶けているのです。
問題なのは▲の部分。
ここの骨は奥のほうに向かって大きく失われています。
詳しい説明は避けますが、この歯周病の進行を止めることはできません。
つまり、この歯があるために、この部分の骨はこれからもっと溶けていきます。
ということは、その前の歯の周囲の骨(歯を支えている骨)も失われていくということです。
今、■の歯を抜歯すれば、その前の歯をいい状態で残すことが可能です。
そして、インプラントや入れ歯のことを考えずとも、見た目はブリッジで歯があるのと同じように治療ができます。
しかし、抜歯をためらっていれば・・・・
■の歯がいよいよグラグラになって抜歯の決断がついたときは、その前の歯が今の■の歯と同じ状態になっているでしょう。
そのときにはどういう判断、いや考え方、それとも悩み方をしましょうか?
私が大学を卒業した当時は、アメリカの技術を学ぶだけでした。
アメリカの治療技術にとても太刀打ちできませんでした。
インプラントをはじめ、優れた材料、技術、機材。
しかし、今は変わってきています。
ちょうど大リーグでたくさんの日本人選手が活躍しているように。
しかし、私はまだアメリカには勝てないと思っています。
それは、材料や機材のハードの優劣だけではないからです。
日本人の研究者がNASAに行くと驚くそうです。
「なんであんな雑な奴らがスペースシャトルを打ち上げて、きちんと帰ってこさせることができるのかわからない。」と。
日本人は器用です。
これは決してアメリカ人にひけはとりません。
しかし、アメリカ人は、チームプレーで全体を考えて結果を出す能力に長けているのです。
一つ一つの技術は少々雑でも、トータルでうまくいけばよいわけですね。
もちろん全ての技術が完璧であるべきですが、どちらかと言えば日本人は力を注ぐべきところに力を注がず、自分がしたいことをする傾向があります。
面白い例ですが、宇宙空間のような無重力の状態ではボールペンは使えません。
そのためNASAは巨額の資金を投じて、無重力でも書けるボールペンを開発しました。
しかし、ソ連(当時)はどうしたか?
全て鉛筆にしました。
笑い話のようですが、物を考える仕事をしていると、このような考え方は大変大事なことだと実感します。
だからソ連はアメリカより先に、有人宇宙飛行を成功させることができたのかも知れません。
抜きたくない感情#4に続く


