「中腰で耐える#2」の続き。
内田樹の研究室にのっていたこのお二人の対談集である。
内田樹氏(うちだ・たつる) 神戸女学院大学文学部教授
春日武彦氏(かすが・たけひこ) 都立墨東病院精神科部長
医療従事者が考えておかなければいけない大切な事についての大きな示唆があります。
内田 大学の先生もそうなんですが,医師も,「自分は正しい答えを知っている」という信憑が基本的にあるし,それがないとやっていけない職業です。だから,中腰で我慢するというあり方は難しいのかもしれない。
しかし,知性は正しい判断を下すこともあるし,間違えることもある。だからもし正しい知性のあり方というのが存在するとすれば,それは正しい判断をくだせない時に「よくわかりません」と言えることだろうと思います。しかし中腰で我慢できない人というのは,それを,すごく嫌うんですよね。
そういう人は,自分の理論が適用できない事例があった時に,「これにはあてはまりません」と言わずに,無理やりあてはめようとする。事例の中の都合の悪いファクターを全部削り取って,「ほら! 私の理論は全部にあてはまる」と言いたがるわけです。
春日 実際にはノイズ,あるいは例外みたいなもののほうが大事だったりするわけで,「すべてに当てはまる」なんていうマニュアル的なものは,現場では役に立たないんですよね。
内田 ですから逆に,「ここには有効だけれども,ここから先には使えません」と言う,地域限定,期間限定,条件限定の,適用範囲が限定されている理論のほうが,僕は理論としてはずっと上等だと思うんです。「何にでも使えます」なんて怪しいですよ。
春日 統合失調症の方で「これが宇宙の法則なんです!」って言いたがる人がけっこういるんですけど,それと一緒ですね(笑)。とにかく,コンパクトな中に真実を入れたがる。本1冊とか,箱の中に世界のすべてが入ってるとか,そういうのにグッとくるらしいです。
内田 普遍的であり,簡明であるものが好きってことですよね。そういう意味では似ているかもしれない
私が歯科医になってからずっと努力してきたのは、いかに治療のオプションを増やしていくかということでした。
そして、40歳を過ぎてからやっと気づいたことは、全ての患者様に普遍的に当てはまる原則や唯一絶対の治療法は無いのだということでした。
インプラントは確かによい方法です。
治療の理論も確立されてきましたし、成功率もほぼ100%に近づいてきました。
しかし、すべての患者様がインプラントを希望されるわけではありません。
最近、自分でも自分が変わってきたなと思うのは、
「こうしなさい。」
と患者様に言う前に、
「これだけの治療のオプションがありますが、あなたはどうしたいのですか?」
聞けるようになってきたことです。
そして、
「迷っています。」
と答えられたら、もう一度詳しい説明をした上で、
「では、もう少し迷ってみますか?」
とも言えるようになりました。
無責任なように感じるかも知れませんが、こう言うと、
「こうしなさい。」
と私が押し付けた場合より、患者様は早く結論を出されることが多いように感じています。
2005年05月16日
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