2005年04月26日

勇気ある臆病

歯科関係の出版社から、「歯科開業学」−親父の小言に学ぶーという本が出版された。
「患者さんが減らないようにする開業医のための本」というサブタイトルもあるが、「お金儲け」の方法を書いた本ではない。
日本のトップレベルの開業医が、経験、診療の注意、勉強について共著で短い言葉にまとめてある。
「プロジェクトX」の本の歯科医版と思っていただいたらよい。
私が20代〜30代にかけて教えていただいたり、コーヒーをおごっていただいたりした先生が故人となられ、その先生の最後の言葉も乗っている。
あのころ、食うや食わずで研修会に行っていた時代を懐かしく思い出す。
(21年前の私の初任給は20万円。土日に開かれるある程度の研修会に行けば、受講料はそのころでも10万円だった。一体どうやって生活していたのか自分でも不思議だ。)

昨日JRの大きな事故があったが、その件に絡めて朝スタッフに紹介した本の内容である。


私は、1978年にインプラントをはじめ、約2千5百本の手術を行ってきた。(還暦を過ぎてからはまったくやらないように決めた)幸い、大きなトラブルもなくインプラント歯科医を終えることができた。
手術の日は、模型上で必ずリハーサルして壁に貼った「インプラント手術の心得」を絶対に読んで手術に臨んでいた。

【壁張り紙】インプラント手術の心得

@診断をちゃんとやったか
A患者さんの体調はどうか
B自分自身が順調か(前夜の睡眠は十分か)
Cスタッフのリズムはどうか
D上顎の骨質は特に注意(ドリル)
E下顎の深さにも注意
Fうまくいかないと思ったら中止する勇気を持て
「NO」と言い切れる人こそ、勇気ある臆病を身につけた人である。
安全を神様に祈れ。



模型上のリハーサルというのはこういうこと。
このインプラントのケース。ここまでこぎつけるのに、これだけの模型を準備していった。


ステップごとに、きちんと順を追い、レントゲンで骨量を計測するための装置もある。


最終的にはインプラントを植える予定の部位の模型を切断し、実際にインプラントを位置させてみて手術の予想を立てる。

大事なことは、これでOK!OK!ということではない。
常に、「予想される問題点、起こりうる意外な状況は?」を考えている。
簡単に言えば、「もしこうだったら、こうしよう」を考えつづけること。
最終的には、「こうなったら、1本だけしか植えることができないな。」
「この場合は手術を中止しよう。」
「そうなったら、患者様にはこう説明しよう。」
ここまで考えなければならない。

インプラントの手術において「全て想定内」ということは決してありえない。
お口の中をちょっと見ただけで「インプラントはできますよ」と言うような歯科医が決して名医ではないのである。

私は手術1週間前から、暇があればこの模型をもって病院内をうろうろしている。
常に眺めて、イメージトレーニングをするのだ。
スタッフたちもそれを見ているので、すぐに理解した。
最後はこう締めくくった。

「私たちは、常に事故と隣り合わせの仕事をしている。
大事なことは、勇気ある撤退ができるかどうかだ。
『失敗をするより中断をすること』その決断ができるかどうかで優秀さが決まる。
『おかしいな』と思ったら、決してそのまま作業や治療を継続してはいけない。
まず、『おかしいなと思った』ことを誰かに話すこと。
『おかしく』なってから報告してもそれはもう遅い。
それで処理できなければ院長に上げること。
決してあやふやな状態で、何事も進行させてはいけない。」

昨日の事故でなくなられた方のご冥福を祈る。
遺族の方が一番辛いだろうが、運転手さんの家族も辛いと思う。
もう早速マスコミの取材攻勢や心無い人の嫌がらせが始まっているのだろう。
私は、「まあええやろ。やってしまえ。」と思ったときには、家族の顔を思い浮かべることにしている。
posted by maruoka-yoshimitsu at 11:40| Comment(0) | TrackBack(0) | 診療ポリシー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

この記事へのトラックバックURL
http://blog.seesaa.jp/tb/3163221

この記事へのトラックバック